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永遠の憧れの女性

私にとっての永遠の憧れの女性。
それは実在しない。

村上春樹の小説『ノルウェイの森』の登場人物、ハツミさんである。
ハツミさんは名門私立大学の女子大生であり、主人公ワタナベの先輩・永沢さんの彼女である。

…ハツミさんは腕組みして目をつぶり、タクシーの座席の座席の隅に寄りかかっていた。
金の小さなイヤリングが車の揺れにあわせてときどききらりと光った。
彼女のミッドナイトブルーのワンピースはまるでタクシーの片隅の闇にあわせてあつらえたように見えた。淡い色合いで塗られた彼女の形の良い唇がまるで一人言を言いかけてやめたみたいに時折ぴくりと動いた。そんな姿を見ていると永沢さんがどうして彼女を特別な相手として選んだかわかるような気がした。ハツミさんより美しい女性はいくらでもいるだろう、そして永沢さんならそういう女をいくらでも手に入れることができただろう。しかしハツミさんという女性の中には何かしら人の心を揺さぶるものがあった。そしてそれは決して彼女が強い力を出して相手を揺さぶるというのではない。彼女の発する力はささやかなものなのだが、それが相手の共振を呼ぶのだ。タクシーが渋谷に着くまで僕は彼女をずっと眺め、彼女が僕の心の中に引き起こすこの感情の震えは一体何なんだろうとずっと考え続けていた。しかしそれが何であるのかは最後までわからなかった。…


永沢さんは超秀才で国家試験に合格し外務省に就職が決まっている。
あまりに理性的で恋と言う感情すら第三者的に分析したりする。
そしてハツミさんに心底惚れているわけではない。

ワタナベはハツミさんに永沢さんとずっと一緒にいても幸せにはなれないと諭す。
しかし、そのときハツミさんはワタナベに決定的な台詞を言う。

この台詞は永遠に私の心に残るであろう決定的なものだ。

『でもね、ワタナベ君、私はそんなに頭のいい女じゃないのよ。私はどっちかっていうと馬鹿で古風な女なの。システムとか責任とか、そんなことどうだっていいの。結婚して、好きな人に毎晩抱かれて、子供を産めればそれでいいのよ。それだけなの。私が求めているのはそれだけなのよ』

知的で洗練されていて、それでいて大人なハツミさんのような女性が、愛の手応えの無い永沢さんのような男に惚れる。
相手との駆け引きをせず、逃げ道もつくらず無条件降伏で相手に惚れるというところが、粋で格好いいのだ。

だがハツミさんの愛はハッピーエンドでは終わらない。
そして哀しいくらいに切ない結末が待っているのだ。
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by maco4459 | 2009-03-20 01:05 | 随想
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