神谷美恵子の文章が好きだ。
無力感にうちひしがれるとき、私は好んで山の稜線に目をあげる。
そこに一本または数本の木が立っていればなおさらよい。
木々の間を通してみえる空は神秘的だ。その向こうには何が…との思いをさそう。
ことに夕やけの時など、山が次第に夕もやの藍に沈んでゆくと、稜線に立つ枝がくっきりとすかし模様をえがき、それを通して、この世ならぬ金色の光がまぶしく目を射る。
地上にどんな暗いものが満ちていようとも、あそこにはまだ未知なもの、未来と永遠に属する世界があると理屈なしに思われて、心に灯がともる。
非合理な「超越」への思慕も昔から人の心を支えてきたのだ。
この思慕がみたされるとき、初めて心に力が注がれる。
この文の中に出て来る『山の稜線』という言葉。
やきものを見るとき私はその口縁をそして高台まわりを『山の稜線』と重ねあわせてしまう。
心惹かれる作品は『山の稜線』が想像できるのだ。
丸山陶李さんから格別のご好意により頂いたぐいのみ。
唐津の岸岳の土でつくり、釉薬は井戸と同じものを使われているそうだ。