我が家の庭の木瓜が咲きました。
木瓜で思い出すのは漱石の『草枕』の一節です。 …ごろりと寝る。 帽子が額をすべって、やけに阿弥陀となる。 所々の草を一二尺ぬいて、木瓜の小株が茂っている。 余が顔は丁度その一つ前に落ちた。 木瓜は面白い花である。 枝は頑固で、かつて、曲がったことはない。 そんなら真直かと云うと、決して真直でもない。 只真直ぐな短い枝が、ある角度で衝突して、斜に構えつつ全体ができあがっている。 そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安関と咲く。 柔らかい葉さえちらちら着ける。 評してみると木瓜は花のうちで愚かに悟ったものであろう。 世間には拙を守ると云う人がある。 この人が来世に生まれ変わるときっと木瓜になる。 余も木瓜になりたい。 『余も木瓜になりたい』 拙を守る人、小手先の技巧を弄することなく、愚かな生き方をかたくなにつらぬくこと。 漱石は己の志向する生き方を木瓜の花に重ねたのでしょう。 《木瓜咲くや漱石拙を守るべく(明治三十年作)》 …こうやって、煦々たる春日に背中をあぶって、縁側に花の影とともに寝ころんでいるのが、天下の至楽である。 考えれば外道に堕ちる。 できるならば鼻から息もしたくない。 畳から根の生えた植物のようにしてじっとして二週間ばかり暮らしてみたい。 漱石と想いを一にした春の日でした。
by maco4459
| 2011-05-05 21:05
| 日々のこと
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