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うさんくさいことやらな、おもろない

『自然について、私の考えを話そう。』(山と渓谷社)

この本は登山専門誌『山と渓谷』の連載「自然へのまなざし」のインタビュー集である。
そうそうたる面々が登場する。
安藤忠雄(建築家)、大岡 信(詩人)、森 毅(数学者)、養老孟司(解剖学者)、横尾忠則(画家)・・・。

インタビュアーの若菜晃子さんは、あとがきで次のような感想を述べている。
『実際に先生方にお会いしてお話をうかがっていると、かぎられたわずかな時間のなかで必ず、光り輝く言葉に出会うのである。その言葉は、それぞれの方がそれぞれの生き方をされるなかで生まれた言葉であり、その方でなければ言えない言葉である。私は一介のインタビュアーとして、生きた言葉を実感することができ、本当に幸運であった』

一番面白語ったのは河合隼雄(臨床心理学者)さんのインタビューだった。
河合さんと若菜さんのボケとツッコミのような会話はほのぼのとして笑ってしまう。
鷹揚な京都人の河合さんの答えはつかみどころがないように思えるが実は核心を衝いている。

 - 自分を知ることは世界を知ること。
河合 うんうん、そうなるんとちがう。
 - でもそんな、だいそれたこと(笑)。自分なんか・・・・たいしたことないですし。
河合 そんなことないですよ。そりゃあ、あんたの知ってる自分はたいしたことない。
 - ひどい(笑)。
河合 ひどいって、あんた自分で言うたやないの。ただ賛成しただけや(笑)。
   僕だって自分の知ってる自分なんて本当にたいしたことないけど、それを超えたものというのはすごいと思いますよ。
 - 自己というレベルで。
河合 そう。それを自己というか、たましいというかは人によって違いますけど。
 - でもそれがたましいによる、いわれてしまうと私などには、なにかちょっと・・・・・。
河合 うさんくさい。
 - はあ(笑)。
河合 うさんくさいことを知って使ってるんですよ。わざとね。そんなん、うさんくさいことやってんねんから、うさんくさいことやらな、おもろないですよね。
   心理療法家なんて、看板からしてうさんくさいでいしょう。だから皆さんその覚悟で来られるんですね(笑)。
   そうやないのはあんた、匂いのしないチーズ売ってるようなもんですよ(笑)。そうでしょ。うちのチーズは無臭で味もありませんが栄養によろしいって、
   そんなん書いたってだれが来ますかい(笑)。
 - そんなとこで自慢されても(笑)。
河合 僕だってわからないですからね。わからないから、あまりにも人生というのはわからないから。
   その自分のなかの、わからない部分というのを非常に大事にしている。人間はわからないことをあえて入れ込んで生きているんですからね。
   今の人はみんな、わかった、と思う人が多すぎるんですよね。なにもかもわかっていると思って生きているから、なにもかもおもろくなくなってくる。
 - 先生の考え方の基本はおもろいか、おもろくないか。
河合 そうそう、それだけ。それ以外のメルクマール(目印、指標)はないの(笑)。
   正しいか正しくないかとか、なんかためになるかとか全然だめ。おもろないのはいかん。おもろいことやっていったら、正しいことがわかってきて、
   ますますおもろなるんです。
 - なるほど。  

インタビュアーの若菜さんは最後に次のような感想を述べている。
『先生にお話をうかがってからは自分のたましいの存在を認識し、ときおりみつめるようになった。それは私にとってものすごく、大きな変化であったと思う。
 自分の知っている自我だけでなく、わからない自己を大切にすると、なんとなく生きやすくなったように思うからだ』

『うさんくさいことやらな、おもろない』 いい言葉だな。。。。
河合さんは残念ながら故人となられたが、村上春樹、白洲正子、小川洋子などの諸氏とも対談している。これらも興味深い。機会があったら読んでみたいものだ。

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by maco4459 | 2009-07-10 23:22 | 読書日記
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