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チアフルな風呂敷/新渡戸稲造

新渡戸稲造が5千円札になったとき、不思議に思ったものだ。
この人のどこが偉大なのだろうと。

たまたま読んだ著書の中の次の一節を読んで得心した。

英語のチアフル(cheerful)すなわち愉快らしい顔色をすることは大して困難ではないと思っていたが、聖書にしばしば掲げられてあるのを見てから、なるほどこれは容易でないことであり、宗教的に考えるとすこぶる重く、かつ実行しようとしてはじめて、その重みがわかると思った。

世人はややもすれば、男女ともにニコニコするのを、ゲタゲタ笑うと解釈し、彼は馬鹿ではないか、少し足らないところがありそうだ、などと思い、苦しい境遇にいながらゲタゲタニヤニヤしていると解する。

そして、当事者が心の張り裂けるほど苦しい場面にも忍耐してニコニコし、笑いを持って涙を隠している苦心の、いかに多大なるかを察しない者が多い。

そもそも怒りはとかく人に移しやすいものである。
苦しみはとかく愚痴として述べたいものである。
不幸はこれを口外して、他人にも担ってもらいたく思うものである。

しかるに、不幸や艱難をことごとくひとまとめにし、華やかなる風呂敷に包み、世間には見事な目覚めるごとき麗しい風呂敷だなと見せ、喜ばせながら、その内にある重荷をひとりで軽げに担うということは、よほど偉い人でなければできないことである。

私は人のニコニコしているのを、その人の偉大さを思わざるを得ない。
by maco4459 | 2009-01-25 23:06 | 随想
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